「自然にかえれ」
フランスの哲学者ルソーは、社会が人間を堕落させたと主張し、人間は「内的自然」を回復しなければならないと唱えました。
この「自然にかえれ」とは、だいぶ意味合いが違いますが、最近「自然葬」という形で「自然に還る」という考え方を持つ人が多くなりました。日本では古来、亡くなった人を海や山などの自然に返す埋葬方法が主流でした。お墓を持つことは特権階級に属する人間のみに許されることであり、庶民がお墓を建てるようになったのも江戸時代の中頃でした。
「自然葬」は、お墓に遺骨を埋葬する代わりに、海や山に直接遺骨を埋葬します。墓標はありません。「散骨」と呼ばれることもありますが、さらに大きく捉えるのであれば、「水葬」「火葬」「土葬」であっても「自然葬」で間違いありません。「自然に還る」から自然葬なのです。
日本では1948年、「墓地、埋葬等に関する法律」が定められ、墓地以外の場所への埋葬が、事実上できなくなってしまいました。しかし1990年代に入り、「自然葬」を求める団体の動きが活発化。実際に相模湾にて「自然葬」を行いました。この後、法務省からは、
「葬送の一つとして節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪には当たらない」
(Wikipedia 自然葬より)
そして当時の厚生省からは、
「墓埋法はもともと土葬を問題にしていて、遺灰を海や山にまくといった葬法は想定しておらず、対象外である。だからこの法律は自然葬を禁ずる規定ではない」
(Wikipedia 自然葬より)
という見解が示されました。
ただし、「自然葬」は現在も法律的にはグレーゾーンにあることに間違いありません。
「散骨」という考え方は、散骨される人の願いが最も重視された考え方です。しかし世界では、完全に人工構造物を置かないで「環境保護」を目的とした葬儀の形が考えられました。イギリスの「樹木葬」です。日本でもこの「樹木葬」は行われています。
東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・兵庫で葬儀・葬式日本で行われている自然葬で主流な方法は、海や山への散骨です。散骨する場合、遺骨を粉砕し、粉末状にしてから撒く必要があります。また、散骨場所と方法に関しては多くの規制があります。また、地方自治体では、自然葬に関する条例を制定していることもありますので、注意する必要があります。
変わったところでは、大気圏外へと遺骨を打ち上げる「宇宙葬」や、バルーンから遺骨を巻く「バルーン葬」などがありますが、これらは自然と言えるかどうか難しいところですね。
自然葬を行う場合、必ず遺骨を粉末状にする必要があります。
遺骨が自然に還りやすくするために粉骨するという考え方があるようですが、実際、遺骨を砕かないで撒いてしまうと、不法に遺棄したと捉えられかねないこともあります。
通常、機械を使って粉骨しますが、遺骨に刃をあてることを嫌って、別の方法で遺骨を粉末状にしている業者もあるそうです。
日本では、未だに散骨が法律的にグレーなこともあり、おおっぴらに散骨ができる場所はあまりありません。ただ、多くの人が散骨を行っていることは間違いありません。
散骨が規制されている場所は、特に条例などが定められていない場合もあるので注意が必要です。私有地や公共施設では基本的に散骨はできません。
日本では沖合での海洋散骨が人気です。特に許可を得る必要もありません。日本で海洋散骨が禁止されている場所は、熱海市沖合(沿岸10キロ以内)と伊東市沖合(沿岸6海里以内)のみです。海で散骨する場合は、ルールに則り、必ず遺骨を粉末状にします。
しかし、他の自然葬同様に、まだまだ日本では墓地に遺骨を埋葬することが一般的です。日本人の多くは、いい意味で無宗教的な生活を普段は送っていますが、葬儀になるとなぜか宗教へのこだわりを持つ人が多く出てくるのです。
日本には、完全合法の散骨場があります。島根県にある無人島がその場所になります。ただ、島根県出身の方であれば、この場所に散骨する理由があるというものですが、縁もゆかりも無いとなると、何か「自然葬」の目的から外れてしまうようにも思えます。
日本での「自然葬」は、まだまだ自由に行うことができません。人々の理解も進んでいませんし、行政もあまり積極的ではありません。法律上もグレーの状況が続いています。こういう状況下、もっともスムースに事を進められるのは、沖合での散骨でしょう。自分で船をチャーターして行くこともできますし、業者に依頼することも可能です。
日本で行われている樹木葬は、法律的にグレーゾーンである「散骨」とは異なり、自然環境に遺骨を撒くわけでは無く、墓地内の区画に埋葬する形となります。散骨の場合は墓標がありませんが、日本における樹木葬の場合は、樹木が墓標の代わりになります。
自然葬は、基本的には海や山への散骨により、亡くなった方を自然に還すことを目的としています。亡くなった方が生前、このような希望を持っていたのであれば、最高の供養の仕方でしょう。
特に海での散骨は、現在、全国各地で行われており、比較的身近なサービスとなってきました。グレーな部分がある散骨という方式ですが、海洋での葬儀は誰にも迷惑をかけずに行えることが大きなメリットです。故人が、ゆかりのある海域に帰れるのであれば、これほどいいことは無いでしょう。
山での散骨は難しいのが実情です。実際は登山家による「弔い登山」は時々行われていて、仲間の遺骨が撒かれることはあるようですが、本来は所有者の許可が必要です。山での散骨を希望する方は多いようで、登山好きの方だけではなく、一般の方でも「ふるさとの山」に散骨して欲しいと願う人が多くいたのは印象的でした。
より「一般葬」に近い自然葬は「樹木葬」でしょう。「樹木葬」は、日本では墓地の決められたスペースに埋葬されるため、墓石が樹木に変わるだけで、必要な手続きは一般葬と何も変わりません。散骨は現時点ではグレーゾーンですが、日本の「樹木葬」に関しては、まったく問題ありません。樹木だけで無く、花々が咲き乱れるガーデン風のスペースなど、墓地によりさまざまな「樹木葬」の形があります。
日本では、まだまだ仏式の葬儀が一般的です。そのため「自然葬」を行うに当たっては、故人が望んでいたとしても、周囲の家族や親類から反対の声が上がる可能性があります。故人の遺志を尊重したいという気持ちは持っていても、やはり葬儀となると慣例や宗教的な考え方が支配してしまう。これに関しては、ある程度、仕方のない部分はあるでしょう。「自然葬」がどのようなものなのか、根気よく説明する必要があります。
日本の行政は散骨について、基本的には認める見解を出しています。法整備が進み、故人が望む場所で自然に還れることを願いたいところです。
参考:散骨@マガジン(ccd.supersonico.info)
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